出生時に存在する児の形態的、機能的な異常を先天異常といいます。先天異常の自然発生率は2~3%であるといわれています。その原因には、内的因子として単一遺伝子の変異が15~20%、染色体異常が5~10%、外的因子(環境要因)が5~10%を占めていますが、複数の因子が関わると推定されるものを含めて65~70%は明らかな原因が不明です1)
胎児に先天異常(奇形)を生じさせる要因を催奇形因子といい、母体が服用した薬剤の催奇形因子は外的因子に含まれますが、先天異常全体の2~3%であるとされています2)

妊婦への薬剤投与が胎児に及ぼす影響として、催奇形性と胎児毒性があります。
催奇形性とは、妊婦が薬物を服用した際に、胎児に奇形(形態的異常)を生じさせうるリスクのことです。
催奇形因子として、薬剤(サリドマイドエトレチナートなど)のほか、化学物質(アルコール、ダイオキシンなど)、ウイルス(風疹ウイルス、ジカウイルスなど)、放射線などでもヒトへの催奇形性が確認されています。

催奇形性とは

サリドマイド事件

サリドマイドは1957年に催眠鎮静薬として旧西ドイツで発売された薬剤です。約50ヵ国で販売され3)、日本でも1958年から不眠症、1960年にはサリドマイドを含む胃腸薬、妊婦のつわり(悪阻)に対する治療薬としても使用されていました。しかし、妊婦へ投与するにもかかわらず胎児に対する安全性は確認されておらず、市販後調査も実施されていませんでした。
その後、妊娠初期にサリドマイドを服用すると、胎児において耳の欠損や聾、四肢欠損や海豹肢症、指の奇形、内臓奇形などの重篤な先天異常を引き起こす可能性があることを、1961年11月にレンツ博士が製薬会社に警告しました4)。ヨーロッパでは直ちにサリドマイドの販売停止と回収が実施されましたが、日本ではレンツ警告後も1962年9月まで約10ヵ月間販売が続けられました。この対応の遅れが約1,000名ものサリドマイド被害者(うち認定被害者309名)を生むこととなり、大規模な薬害事件に発展しました4)。レンツらの報告によると、サリドマイド被害者は全世界で約3,900名、死産を含めると約5,800名と推定されています。
サリドマイド事件は、医薬品の製造承認等に関する基本方針の制定、医薬品副作用報告制度の整備、薬事法に関わる各種行政指導の強化など、薬事制度を大きく変える契機となりました。わが国では、1963年に最初の毒性試験ガイドラインとして「医薬品の胎児に及ぼす影響に関する動物試験法」が通知されましたが、これは催奇形性を観察する胚・胎児試験のみでした1)。その後、1975年に「医薬品の生殖に及ぼす影響に関する動物試験法」に改正され、出生児において成長および発達(行動を含む)、その他特異な症状の有無ならびに生殖機能などに関する検索を義務づけました5)。さらに、1994年には日米欧の3極を中心として国際的に協調されたICHガイドラインへ発展し、生殖発生毒性試験は、受胎能および着床までの初期胚発生に関する試験(FEED試験)、2種の動物種を用いた胚・胎児発生に関する試験(EFD試験)、出生前および出生後の発生ならびに母体の機能に関する試験(PPND試験)ともICHガイドラインに従って実施されています1)
サリドマイド事件を教訓に、医薬品の品質、有効性に加えて、安全性の確保が薬事行政の世界共通の最重要課題として認識されることになりました。サリドマイドは現在、再発又は難治性の多発性骨髄腫の治療薬として、妊婦についての厳密な安全管理手順のもと使用することで承認を受けています4)

References

1)伊藤真也,村島温子 編.薬物治療コンサルテーション 妊娠と授乳 改訂3版.南山堂;2020.
2)平原史樹.先天異常モニタリング:わが国と世界の取り組み.日産婦誌.2007;59:N246-50.
3)Vargesson N. Thalidomide-induced teratogenesis: history and mechanisms. Birth Defects Res C Embryo Today. 2015 ; 105 : 140-56.
4)日本臨床血液学会 医薬品等適正使用評価委員会.多発性骨髄腫に対するサリドマイドの適正使用ガイドライン(平成15・16年度厚生労働省関係学会医薬品等適正使用推進事業).2004.
https://www.pmda.go.jp/files/000143338.pdf(閲覧日:2023年9月5日)
5)厚生労働省.医薬品の生殖に及ぼす影響に関する動物試験法について.1975.
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6956&dataType=1&pageNo=1(閲覧日:2023年9月5日)

参考)

公益社団法人いしずえ サリドマイド福祉センター.サリドマイド事件-事件の概要/被害の実態.サリドマイドと薬害.
http://ishizue-twc.or.jp/thalidomide/damage-01/(閲覧日:2023年9月5日)