はじめに
妊娠中もしくは妊娠している可能性がある女性に投薬する際、母体だけではなく胎児にも影響が及ぶことがあるため、使用を避けたほうがよい、もしくは特別な注意を要する薬剤があります。
特に、妊婦に対して禁忌とされている薬剤の中には、母体への影響だけでなく、胎児に催奇形性(胎児に奇形を生じさせること)や胎児毒性(胎児の発育障害、臓器機能悪化、死亡のほか、出生後の児に影響を及ぼすこと)が発現する可能性があるものがあります。
生殖可能年齢(初経から閉経まで)の女性で、前回の月経(最終月経)後に性交渉があった場合は、妊娠している可能性があると考えて対応してください。
妊娠が除外できる可能性が高いのは、①経口避妊薬(ピル)や子宮内避妊具[IUS(Intrauterine system)、IUD(Intrauterine device)]のような確実性が高い避妊法をきちんと実施している場合1)と、②最終性交渉後3週間以上経っていて尿の妊娠検査薬が陰性で2)、できれば日を変えて再検査で確認できた場合です。ですから、「妊娠していませんね」と確認するだけではなく、最終月経開始日を確認して、いつもの月経と同じであったか※(量が少なくなかったか、持続日数が短くなかったかなど)を確認してください。
※着床時の出血やその他の疾患による不正性器出血を患者さんが月経と勘違いされることもあります。
<患者さんとのやり取りの例①>
<患者さんとのやり取りの例②>
妊娠月数3ヵ月程度まで妊娠に気付かないことがありますが、妊娠に気付いていない時期は胎児の中枢神経、心臓、消化器、四肢などの重要な器官が形成される大切な時期である絶対過敏期(妊娠4週~7週末)と重なることが多いため、催奇形性という意味で最も危険度が高く、薬剤の影響を受けやすい時期です。つまり、催奇形性がある薬剤から胎児を守るためには、最終月経後に性交渉があった場合は、妊娠している可能性があると考えて対応する必要があります。
避妊法については、わが国で多く使用されているコンドームや腟外射精はきわめて不確実です。一方、適正に使用されているピルやIUS、IUDは避妊効果が期待できます1)。このため、コンドームや腟外射精で避妊を行った場合は、避妊が不完全で、妊娠している可能性があると考え、患者さんと情報交換すべきです。
このように、妊婦への投与が禁忌である薬剤や注意を要する薬剤を、妊娠する可能性がある女性へ使用する際には、「前回の月経(最終月経)後に性交渉を行ったか」、「性交渉を行った場合、避妊をしていても確実な避妊法でなければ妊娠している可能性がある」ことなどを患者さんと念入りにご確認いただき、妊娠している可能性がある場合にはその薬剤を避けるなど、特に慎重な配慮が必要です。
また、妊娠していないことを確認して投薬を行った場合は、いつまで、どのような方法で避妊を継続すべきかを指導する必要があります。
一方で、妊婦への投与が禁忌である薬剤を「妊娠と気付かずに服用してしまった」という場合でも、患者さんがすぐに中絶することを考えたり、薬剤の使用によるリスクを過剰に心配したりしないように、妊娠中に薬剤を使用することや、使用したことについて不安を感じる場合などは、専門の医師または薬剤師に相談するようにお話いただくことも大切です。現在、妊娠と薬に関する相談外来は全国に設置されています3)。
References
1)World Health Organization. Family planning/contraception methods. 2020.
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/family-planning-contraception(閲覧日:2023年9月5日)
2)愛知県薬剤師会 妊婦・授乳婦医薬品適正使用推進研究班.「妊娠・授乳と薬」対応基本手引き(改訂2版)2012年12月改訂.2012.
http://boku-clinic.com/pdf/d3.pdf(閲覧日:2023年9月5日)
3)国立成育医療研究センター.妊娠と薬外来一覧.
https://www.ncchd.go.jp/kusuri/popwindow.html(閲覧日:2023年9月5日)
参考)
・林 昌洋,佐藤孝道,北川浩明 編.実践 妊娠と薬 第2版.じほう;2010.
・厚生労働省.妊娠と薬.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/ninshin_00001.html(閲覧日:2023年9月5日)