妊婦への薬剤の使用は妊娠週数によって影響の種類や危険度が異なります。胎児に対する薬剤の影響はどの時期に服薬したかが重要となり、薬剤の催奇形性の影響を受けやすい時期は妊娠初期です。また、催奇形性という意味で薬剤が胎児に及ぼす影響は、妊娠(胎児発育)時期のいつ投与されたかと投与された薬剤の種類によって異なってきます。妊娠初期は週数によって①無影響期、②絶対過敏期、③相対過敏期、比較過敏期に分かれます。催奇形性に最も注意するべき時期は妊娠4~7週末の絶対過敏期です(図1)。
妊娠週数と薬剤の影響

図1 妊娠週数と薬剤の影響

(林 昌洋,佐藤孝道,北川浩明 編.実践 妊娠と薬 第2版.じほう;2010.,くすりの適正使用協議会.妊娠・授乳とくすり.
https://www.rad-ar.or.jp/knowledge/post?slug=maternity[閲覧日:2023年9月5日]より作図)

① 無影響期(受精前~妊娠3週末)

“All or none(全か無か)”と呼ばれる時期で、受精後2週間(妊娠3週末)以内に薬剤の影響を受けた場合、受精卵は受精能力を失ったり、受精しても着床しなかったり、流産して消失するか(妊娠不成立)、あるいは完全に修復され、生まれてきた新生児に薬剤の影響は残らないとされています。この時期は妊娠に気付かないまま服薬してしまう妊婦も多いですが、流産にならなかった場合は胎児への影響は基本的に考慮しなくてよいと考えられています。

② 絶対過敏期(妊娠4週~7週末)

胎児の中枢神経、心臓、消化器、四肢などの重要な器官が形成される大切な時期です。薬剤の影響を受けやすい時期でもあり、催奇形性に対して最も過敏になり、薬剤によっては奇形が起こる可能性があります。この時期の妊婦への薬剤投与は、治療上不可欠なものに限るとともに、催奇形性のある薬剤をなるべく避けるなど、特に慎重な配慮が必要となります。

③ 相対過敏期、比較過敏期(妊娠8週~15週末)

胎児にとって重要な器官の形成は終了していますが、性器の分化や口蓋の閉鎖などが行われている時期です。また、胎児によっては重要な器官形成がこの時期まで遅れていることもあります。催奇形性という意味で、胎児の感受性は次第に低下していきますが、催奇形性のある薬剤の投与はなお慎重さが必要です。

④ 潜在過敏期(妊娠16週~分娩)

この時期では、アンジオテンシン受容体拮抗薬(Angiotensin Ⅱ Receptor Blocker:ARB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やミソプロストールなどを除いて、薬剤による奇形はほとんど起こらないと考えられています。一方、母体が摂取した薬剤が胎盤を経て胎児に移行し、さまざまな悪影響を与える胎児毒性(表1)が問題となってきます。胎児の機能的異常や発育抑制、子宮内胎児死亡、胎児環境の悪化などが生じる可能性があります。一般的に分娩間近のほうが胎児への影響が大きくなります。
生殖可能年齢(初経から閉経まで)の女性で、前回の月経(最終月経)後に性交渉がある場合は、妊娠している可能性があると考えて対応してください。
月経が遅れていなくても、妊娠反応が陰性でも、妊娠初期であることがあります。また、この時期は女性本人も妊娠していることに気付いておらず、妊娠月数3ヵ月程度まで妊娠に気付かないことがありますが、妊娠に気付いていない時期は胎児の中枢神経、心臓、消化器、四肢などの重要な器官が形成される大切な時期である絶対過敏期(妊娠4週~7週末)と重なることが多いため、催奇形性という意味で最も危険度が高く、薬剤の影響を受けやすい時期です。つまり、催奇形性がある薬剤から胎児を守るためには、最終月経後性交渉があった場合は、妊娠している可能性があると考えて対応する必要があります。
このように、妊婦への投与が禁忌である薬剤、注意を要する薬剤を使用する際には、前回の月経(最終月経)後に性交渉を行ったか、避妊をしていても確実な避妊法でなければ妊娠している可能性があることなどを慎重にご確認いただき、妊娠している可能性がある場合にはその薬剤を避けるなど、特に慎重な配慮が必要です。
また、妊娠していないことを確認して投薬を行った場合は、いつまで、どのような方法で避妊すべきかを指導する必要があります。

参考)

・林 昌洋,佐藤孝道,北川浩明 編.実践 妊娠と薬 第2版.じほう;2010.
・林 昌洋.妊婦・授乳婦における薬物療法と胎児・乳児リスクの評価.Organ Biology.2011;18:279-86.
・厚生労働省.妊娠と薬.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/ninshin_00001.html(閲覧日:2023年9月5日)