GABAA受容体におけるアロプレグナノロンの特異的作用
監修 新潟大学医学部 精神医学教室 教授 朴 秀賢 先生*
*資材ご監修時のお肩書で掲載させていただいております。
アロプレグナノロンのGABAA受容体調節機構
アロプレグナノロンは、GABAA受容体においてGABAやベンゾジアゼピン(BZ)系薬剤とは異なる、神経ステロイド特有の部位に結合してポジティブアロステリックモジュレーター(PAM)として作用します1)。
ナノモル濃度という低濃度においても、特にδサブユニットを含むポストシナプス領域外受容体(Extrasynaptic receptor)に高い感受性を示すことが知られています1-5)。
1) Paul, S.M.: Neurobiol Stress. 2020; 12: 100215.
2) Walton, N.L. et al.: Neurosci Biobehav Rev. 2023; 152: 105327.
3) Lüscher, B. et al.: F1000Res. 2019 May 29, 8_F1000 Faculty Rev-751.
4) Takasu, K. et al.: Front Cell Neurosci. 2024; 17: 1274459.
(本論文の著者は塩野義製薬株式会社の社員である)
5) Irwin, R.W. et al.: Prog Neurobiol. 2014; 113: 40.
GABAA受容体とは?
GABAA受容体は、主に脳・脊髄において2つのαサブユニット、2つのβサブユニット、及び1つのγ又はδサブユニットなどからなる5量体として存在します【図1】6)。
αβγ型GABAA受容体は主にシナプス内(ポストシナプス領域内)に局在し、神経終末から放出された高濃度のGABAに応答して開口し、塩素イオン流入による過分極を介して一過性(phasic)抑制を引き起こします。一方、αβδ型GABAA受容体は主にシナプス外(ポストシナプス領域外)に分布し、細胞外に存在する低濃度のGABAに対して高い親和性を示すため、持続性(tonic)抑制に寄与します4,7-10)。
アロプレグナノロンの抗うつ様作用(マウス)
アロプレグナノロン及びジアゼパムは、いずれもGABAA受容体に作用するポジティブアロステリックモジュレーター(PAM)です1)。社会的敗北ストレスモデルマウスを用いて抗うつ様作用を検討したところ、アロプレグナノロン投与群では溶媒群よりもday 1、day 3、day 7において他のマウスとの接触時間が有意に長くなりました[p=0.038(day 1)、p=0.011(day 3)、p=0.0003(day 7)、Tukey’s検定]【図3-1】4)。
一方、ポストシナプス領域外のGABAA受容体に含まれるδサブユニットを欠損したノックアウトマウスでは抗うつ様作用が認められませんでした【図3-2】4)。このことから、アロプレグナノロンによる抗うつ様作用は、BZ系薬剤では標的とされないδサブユニット含有GABAA受容体を介して作用するという、特有のメカニズムに起因すると考えられます4)。
- 方法
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社会的敗北ストレス誘発うつ病モデルマウス※(雄性C57BL/6J Jclマウス)にアロプレグナノロン20mg/kg、ジアゼパム2mg/kg又は溶媒を1日1回7日間反復腹腔内投与し、社会性行動(雄性CD-1マウスとの接触時間)に対する影響を検討した。また、社会的敗北ストレス誘発うつ病GABAA受容体δサブユニットノックアウト(KO)マウス(Gabrd-/-マウス)にアロプレグナノロン20mg/kg又は溶媒を1日1回7日間反復腹腔内投与し、社会性行動(雄性CD-1マウスとの接触時間)に対する影響を検討した。
※社会的敗北ストレスは、うつ病の発症過程を長期的に観察するためのモデルとして使用されている。
アロプレグナノロンがもたらす持続性(tonic)抑制の特性
BZ系薬剤は、αβγ型GABAA受容体においてGABA作用をアロステリックに増強し、主として一過性(phasic)抑制を高めます。一方、内因性神経ステロイドであるアロプレグナノロンは、αβδ型GABAA受容体に対しても作用し、一過性(phasic)に加えて持続性(tonic)抑制に関与する点が特徴です。持続性(tonic)抑制は、神経細胞の基礎的な興奮性を規定する持続的な抑制機構であり、外的・内的刺激に対する過剰な神経応答を抑制する方向に働くと考えられています4,7-10)。
このように、アロプレグナノロンはBZとは異なる結合様式を介して作用し、αβδ型GABAA受容体にも作用し得ることから、BZ系薬剤とは異なる神経回路調節プロファイルを示す可能性があります【図2】10)。
監修医コメント
新潟大学医学部 精神医学教室 教授 朴 秀賢 先生*
*資材ご監修時のお肩書で掲載させていただいております。
アロプレグナノロンはGABAA受容体機能を増強する点ではベンゾジアゼピン(BZ)系薬剤と共通していますが、作用部位及び作用様式には違いがあります。BZは主にシナプス内のGABAA受容体のγサブユニットを含む受容体に作用し、GABA依存的に抑制性神経シグナルを増強することで、主として「一過性抑制(phasic inhibition)」を増強します1)。一方、アロプレグナノロンはシナプス外のδサブユニットを含む受容体にも作用し、一過性(phasic)抑制に加えて「持続性抑制(tonic inhibition)」を増強することで、神経回路の基礎的な興奮性の調節に関与すると考えられています2)。このような薬理学的特性から、アロプレグナノロン系薬剤は従来のGABA作動薬とは異なる神経調節作用を有する可能性が示唆されています。
2) Reddy, D.S.: Trends Mol Med. 2023; 29(12): 979‐982.