アロプレグナノロンの基礎的知見とうつ病の病態生理
監修 新潟大学医学部 精神医学教室 教授 朴 秀賢 先生*
*資材ご監修時のお肩書で掲載させていただいております。
アロプレグナノロンとは?
アロプレグナノロンの生合成は、神経組織内において、主に5α-還元酵素及び3α-ヒドロキシステロイド脱水素酵素(3α-HSD)などによる段階的な酵素反応を介して進行します【図1】1)。
アロプレグナノロンは、GABAA受容体の膜貫通ドメイン内のα/βサブユニット界面に結合するポジティブアロステリックモジュレーター(PAM)注)として作用し、抑制性神経の調節、神経回路の安定化、さらには情動やストレス応答の制御などに関与2)しています【図2】3)。
注) 薬が作用する受容体の結合部位には、内因性のペプチド等が結合するオルソステリック部位と、それ以外のアロステリック部位が存在する。アロステリック部位に結合する化合物のうち、オルソステリックアゴニストの効果を増強するものは正のアロステリックモジュレーター(positiveallosteric modulator:PAM)、逆にオルソステリックアゴニストの効果を減弱するものは負のアロステリックモジュレーター(negative allosteric modulator:NAM)と呼ばれる4)。
2) Paul, S.M.: Neurobiol Stress. 2020; 12: 100215.
3) Gunduz-Bruce, H. et al.: J Neuroendocrinol. 2022; 34(2): e13019. より改変
4) Burford, N.T. et al.: Br J Pharmacol. 2015; 172(2): 277-286.
アロプレグナノロンとストレス・うつ病との関係
5) Boero, G. et al.: Neurobiol Stress. 2019; 12: 100203.
[本論文の著者にはSage社(現:Supernus社)より研究費を受領した者が含まれる]
6) 松本欣三ほか: 日薬理誌. 2005; 126: 107-112.
7) Irwin, R.W. et al.: Prog Neurobiol. 2014; 113: 40-55.
監修医コメント
新潟大学医学部 精神医学教室 教授 朴 秀賢 先生*
*資材ご監修時のお肩書で掲載させていただいております。
アロプレグナノロンは、主に大脳皮質や海馬で生合成される内因性神経ステロイドのひとつであり1)、近年、うつ病の病態生理との関連が注目されています。ストレス応答にはグルココルチコイドが関与し、視床下部-下垂体-副腎皮質軸(HPA軸)の活性化に伴い、その血中濃度が上昇することが知られています2)。このようなHPA軸の持続的な活性化は、海馬における神経機能や神経可塑性に影響を及ぼし、うつ病の病態形成に関与すると考えられています3-5)。
一方、アロプレグナノロンはストレスに応答して速やかに産生され5)、HPA軸の過剰な活性化を抑制することで4)、ストレスによる脳への負の影響を軽減する可能性が示唆されています。さらに、うつ病患者では脳脊髄液中のアロプレグナノロン濃度が低下していたことが報告されており6)、内因性神経ステロイドの不足がHPA軸の過剰な活性化の持続を介して、うつ病の病態形成に関与する可能性が考えられます。
以上の知見から、アロプレグナノロンを補充、あるいはその作用を増強する薬剤は、既存のモノアミン系抗うつ薬とは異なる作用機序を有することから、うつ病に対する新たな治療選択肢となる可能性が期待されています。
2) 朴 秀賢: 医学のあゆみ. 2025; 292(13): 1042-1046.
3) Lüscher, B. et al.: F1000Res. 2019; 8: F1000 Faculty Rev-751.
4) Irwin, R.W. et al.: Prog Neurobiol. 2014; 113: 40-55.
5) Boero, G. et al.: Neurobiol Stress. 2019; 12: 100203.
[本論文の著者にはSage社(現:Supernus社)より研究費を受領した者が含まれる]
6) Uzunova, V. et al.: Proc Natl Acad Sci USA. 1998; 95(6): 3239-3244.