CRE治療とフェトロージャ
監修医Comment

CREの脅威
WHOによる報告2)

CREはカルバペネム系抗菌薬に耐性を示す腸内細菌目細菌の総称であり、腹腔内感染症、血流感染症、肺炎等の感染症の原因菌となる。米国では年間13,000人以上がCRE感染症を引き起こし、死者数は1,000人超(2017年時点)と報告されており、米国疾病管理・予防センター(CDC)はCREをUrgent Threats:切迫した脅威としている3) 。
CREはカルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌(CPE)と非産生菌に大別されるが、公衆衛生上特に問題とされるのがCPEである。CPEはカルバペネム系抗菌薬のみならず、ペニシリン系やセフェム系等、ほぼ全てのβ-ラクタム系抗菌薬に耐性を示すために治療選択肢が限られ、結果として難治例や重症例が多くなる。また、海外ではCREにより血流感染を発症すると致死率は最大50%であったことが報告されている4)。さらにCPE感染症ではNon-CPEの場合に比べ、患者予後が悪かったことが報告されている5)。
加えて、カルバペネマーゼ遺伝子の多くはプラスミド上に存在するため、薬剤耐性が菌種を超えて伝播することが知られており、患者内で増えた耐性菌は院内伝播にとどまらず広く拡散する可能性も否定できない6)。
このようにCREは多剤耐性傾向が強いため難治性に陥りやすく、プラスミドを介した遺伝子の伝播により急速に拡散していることから世界的脅威と考えられ、感染上の対策が急務となっている。
日本と海外の疫学比較
カルバペネマーゼ遺伝子型検出状況
カルバペネマーゼはAmbler分類に基づき3つのクラス(Class A、B、D)に分類される。その検出状況には地域特異性がみられ、日本と諸外国における疫学は大きく異なる。クラスAのKPC型は、クラスAの内世界で最も流行している型であり、北米、南米、欧州諸国、中国で多く検出される。クラスBのNDM型はインド等南アジアや中国で多く、クラスDのOXA-48型はトルコ等の地中海諸国で多く報告されている7) 。
一方、日本においてはクラスBのIMP型が主流となっている8)。IMP型は欧米で検出されることは少なく、現状流行しているのは日本と台湾のみである9)。

中村明子ほか:THE CHEMICAL TIMES, 2016, 1, 239, 10
石井良和:日本臨床微生物学雑誌, 2014, 24(3), 171より作表
カルバペネマーゼ遺伝子型別検出割合
国立感染症研究所の病原微生物検出情報によると、2021年に国内で届出られたCRE1,441株のうちCPEは217株(15.1%)であり、その遺伝子型はIMP型が87.1%と大部分を占めていた。NDM型を含めると約95%がクラスBのメタロβ-ラクタマーゼ(MBL)であることがわかる。なお、海外型カルバペネマーゼ遺伝子とされるNDM型、KPC型、OXA-48型陽性株は合計20株であり、全報告株数の1.4%であった。
一方、米国では、CRE4,442株のうちCPEは1,401株(32%)であり、遺伝子型はKPC型が約85%であったとの報告がある10)。このように、日米を比較してもCRE及びCPEの疫学は異なる。現在、日本ではCPEの割合が比較的低いが、今後海外から持ち込まれ蔓延する可能性が否定できないため、その動向に注意が必要である。

ESBL : extended-spectrum β -lactamase、基質拡張型β -ラクタマーゼ VIM : Verona integron-encoded metallo-β -lactamase、クラスB カルバペネマーゼの一つKPC : Klebsiella pneumoniae carbapenemase、クラスA カルバペネマーゼの一つ AmpC: class C ampicillinase、クラスC β -ラクタマーゼの一つ
IMP : imipenemase、クラスB カルバペネマーゼの一つ OXA : oxacillinase、クラスD カルバペネマーゼの一つ
NDM: New Delhi metallo-β-lactamase、クラスB カルバペネマーゼの一つ
CREの治療選択肢
CRE及びMBLに対するガイドラインの記載
本邦で主流のカルバペネマーゼであるMBLに対してはどのような抗菌薬が推奨されるのか。MBLについてはこれまで決定打となる抗菌薬が存在しなかったが、新薬の登場によりその選択肢が絞られつつある。JAID/JSC感染症治療ガイド2023では、CRE及びMBLに対しては感受性結果をもとに判断すると記載されている11)。
一方、欧米のガイドラインではMBL感染症において、他抗菌薬に耐性を示す場合はセフィデロコルが推奨されている。IDSAのグラム陰性桿菌感染症治療のガイダンス2024では、CREによる非尿路感染症でMBLの場合はセフタジジム-アビバクタム+アズトレオナムの併用療法またはセフィデロコルの単剤療法が望ましいとされており12)、ESCMIDの多剤耐性グラム陰性桿菌感染症治療ガイドラインでは、MBLによる重篤な感染症及び/またはセフタジジム-アビバクタム、メロペネム-バボルバクタム*を含む他抗菌薬全てに耐性の場合、セフィデロコルによる治療が条件付きで推奨されている13)。
新たな治療選択肢「セフィデロコル(フェトロージャ)」
*: 本邦未承認
IDSA : Infectious Diseases Society of America、米国感染症学会
ESCMID: European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases、欧州臨床微生物感染症学会

細菌の薬剤耐性機序を克服する世界初の作用機序
作用機序
フェトロージャは細菌が自ら鉄を取り込む性質を利用し、その鉄に結合することで細菌内に侵入し抗菌作用を発揮する世界初の作用機序を有する薬剤である。これにより、カルバペネム耐性菌の主要な耐性機序の一つである外膜透過性低下を回避する。
さらに、各種β-ラクタマーゼに対し高い安定性を示し、排出ポンプ高産生の影響を受けにくいという特徴を有している。これらの機序によって既存のβ-ラクタム耐性を克服し、標的であるペニシリン結合タンパク質に結合することで細胞壁合成を阻害する。

Zhanel, GG. et al.: Drugs, 2019, 79(3), 271より作図
著者に塩野義製薬株式会社より研究助成金を受領している者が含まれる。
臨床分離グラム陰性菌の分子生物学的性状解析(in vitro)

試験方法
SIDERO-WT-2015及びSIDERO-WT-2016の2件の国際的サーベイランス試験において分離されたグラム陰性菌のうち、カルバペネム耐性の腸内細菌目細菌(471株)、緑膿菌(801株)、アシネトバクター属(1,129株)、計2,401株を対象に、分子生物学的性状解析を実施し、それらに対するフェトロージャの活性を評価した。
主なカルバペネム非感性及び多剤耐性グラム陰性桿菌
臨床分離株に対する高い感受性(in vitro)

試験方法
2014年~2016年にIHMA(International Health Management Associates, Inc.)が世界52か国から収集した臨床分離株より、カルバペネム非感性及び多剤耐性グラム陰性桿菌1,873株を対象とし、フェトロージャのin vitro抗菌活性を検討した。
臨床分離株の同定には質量分析法(MALDI-TOF)、薬剤感受性試験にはCLSIの微量液体希釈法を用い、フェトロージャの培地にはID-CAMHBを使用した。
ID-CAMHB: iron-depleted cation-adjusted Mueller Hinton broth、鉄欠乏カチオン調整ミューラーヒントンブロス
Hackel, MA. et al.: Antimicrob Agents Chemother., 2018, 62, e01968より一部改変 本研究は塩野義製薬株式会社の資金により行われた。著者に塩野義製薬株式会社社員が含まれる。
4. 効能・効果
〈適応菌種〉
セフィデロコルに感性の大腸菌、シトロバクター属、肺炎桿菌、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア・マルセスセンス、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、緑膿菌、バークホルデリア属、ステノトロホモナス・マルトフィリア、アシネトバクター属
ただし、カルバペネム系抗菌薬に耐性を示す菌株に限る。
〈適応症〉
各種感染症
「警告・禁忌を含む注意事項等情報」等につきましては電子添文情報をご参照ください。
第Ⅲ相臨床試験における有効性・安全性
カルバペネム耐性グラム陰性菌感染症患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験 (CREDIBLE-CR試験)
社内資料:セフィデロコルの第Ⅲ相カルバペネム耐性グラム陰性菌による重症感染症患者を対象とした非盲検試験[承認時評価資料]
Bassetti, M. et al.: Lancet Infect Dis., 2021, 21(2), 226
本研究は塩野義製薬株式会社の資金により行われた。著者に塩野義製薬株式会社社員が含まれる。



7. 用法・用量に関連する注意(一部抜粋)
7.1 腎機能障害のある患者では、以下の基準を目安として用法・用量を調節すること。[9.2、16.6.1 参照]
腎機能障害(Ccr 60mL/min未満)のある又は血液透析を受けている患者※
Ccr(mL/min)/血液透析患者 | 1回投与量 | 投与間隔 | 投与時間 |
30≦Ccr<60 | 1.5g | 8時間毎 | 3時間 |
15≦Ccr<30 | 1g | 8時間毎 | 3時間 |
Ccr<15 | 0.75g | 12時間毎 | 3時間 |
血液透析患者 | 0.75g | 12時間毎 | 3時間 |
Ccr:クレアチニンクリアランス
※:血液透析患者では、透析実施後できるだけ速やかに投与すること。
HAP/VAP/HCAP又はBSI/sepsisの患者におけるTOC時点での被験者ごとの臨床効果(主要評価項目)
HAP/VAP/HCAP被験者におけるTOC時の被験者ごとの臨床効果の有効率〔95%信頼区間〕は、フェトロージャ群で50.0%(20/40例)〔33.8, 66.2〕、BAT群で52.6%(10/19例)〔28.9, 75.6〕であった。
BSI/sepsis被験者におけるTOC時の被験者ごとの臨床効果の有効率は、フェトロージャ群で43.5%(10/23例)〔23.2, 65.5〕、BAT群で42.9%(6/14例)〔17.7, 71.1〕であった。

4. 効能・効果
〈適応菌種〉
セフィデロコルに感性の大腸菌、シトロバクター属、肺炎桿菌、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア・マルセスセンス、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、緑膿菌、バークホルデリア属、ステノトロホモナス・マルトフィリア、アシネトバクター属
ただし、カルバペネム系抗菌薬に耐性を示す菌株に限る。
〈適応症〉
各種感染症

cUTI患者におけるTOC時点での被験者ごとの細菌学的効果: グラム陰性原因菌に対する効果(主要評価項目)

安全性
カルバペネム耐性グラム陰性菌感染症患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験において、フェトロージャ群の副作用発現率は14.9%、BAT群は22.4%であった。
重篤な副作用は、フェトロージャ群で1例(トランスアミナーゼ上昇)、BAT群で5例(てんかん重積状態、アナフィラキシー反応、急性腎不全、敗血症性ショック、代謝性アシドーシス、呼吸停止及び急性腎不全各1例)であった。
投与中止に至った副作用はフェトロージャ群で3例(発熱、トランスアミナーゼ上昇、薬疹各1例)、BAT群で2例(アナフィラキシー反応、てんかん重積状態各1例)であった。
本試験において死亡に至った副作用は、フェトロージャ群では認められず、BAT群で1例(代謝性アシドーシス、呼吸停止及び急性腎不全)であった。

MedDRA/J Ver.18.1
*1: ランダム割付けされ、治験薬が少なくとも1回投与されたすべての被験者
*2: いずれかの投与群で3例以上に発現
References
1)THE REVIEW ON ANTIMICROBIAL RESISTANCE CHAIRED BY JIM O’NEILL: TACKLING DRUG-RESISTANT INFECTIONS GLOBALLY: AN OVERVIEW OF OUR WORK, 2016
2)WHO Bacterial Priority Pathogens List, 2024
https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/376776/9789240093461-eng.pdf
3)CDC: ANTIBIOTIC RESISTANCE THREATS in the United States, 2019
4)C.N-S. Francisco et al.: Clin Microbiol Infect., 2013, 19(2), e72
5)Tamma PD, et al.: Clin Infect Dis., 2017, 64(3), 257
6)梅田 薫ほか: Ann Rep Osaka Inst Pub Health., 2021, 5, 25
7)Logan, LK. et al.: J Infect Dis., 2017, 215(Suppl 1), S28
8)IASR, Vol.43, 215-216, 2022年9月号
9)Nordmann, P. et al.: Emerg Infect Dis., 2011, 17(10), 1791
10)Woodworth, KR. et al.: MMWR Morb Mortal Wkly Rep., 2018, 67(13), 396
11)JAID/JSC 感染症治療ガイド2023(JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会編), 日本感染症学会・日本化学療法学会, 杏林舎, 東京(2023)
12)Tamma, PD. et al.: Clin Infect Dis., 2024, July, 12, p46
13)Paul, M. et al.: Clin Microbiol Infect., 2022, 28(4), 521
14)Wise, MG. et al.: Microb Drug Resist., 2023, 29(8), 360
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